ある日、彼女とこんないちゃらぶ。ーOne Day Story

渚にて

渚にて

旅先の朝、ゆあがホテルの窓辺で背伸びをしていた。 「ねえ、海、行こう」と、水着の上からシャツを羽織っただけの彼女が振り返る。眩しすぎて、目を逸らしてしまった。 波打ち際を二人で歩いた。 グラビアの仕事を辞めてから、彼女は少し自由になった気がする。 「もう、カメラないんだよ」と笑う彼女の横顔に、潮の香りが混じる。 「ねえ、見て」と差し出された貝殻を、僕の手のひらに乗せる。 その指先が、少しだけ触れた。 夕暮れのビーチで、彼女はシャツを脱いだ。 白い水着が夕陽に透けて、僕の心臓が音を立てる。 「…いつもと違うでしょ、今の私」 帰り道、彼女の濡れた髪が僕の肩に触れた。 ホテルまで、あと少し。その夜のことは、波の音だけが知っている。

朝のひとしずく

朝のひとしずく

彼女は朝に強い。 僕がまだ布団の中でうだうだしていると、雫葉はもうカーテンを開けている。逆光の中、白いキャミソールが透けて見える。 「……眩しい」 「おはよ。いい天気だよ」 「もう少し寝かせて」 「だめ。朝ごはんできてるよ」 そう言って、布団を剥ぎ取られる。166センチの長身が覆いかぶさってきて、視界がぜんぶ彼女になる。 「ほら、起きて」 柔らかいものが、顔に押し付けられた。 「……それ反則」 「え? 何が?」 本当にわかっていないのか、わかっていてやっているのか。雫葉は笑って身を起こすと、スマホを取り出した。 「あ、待って。今日こそクリアする」 「……またソリティア?」 「うん。あとちょっとなの」 画面を真剣に見つめる横顔。朝日に透ける肌。その眩しさに、毎朝、目が覚める。 起き上がって、彼女の隣に座った。 「……見せて」 「え、興味あるの?」 「ない。でも、見てたい」 雫葉は一瞬きょとんとして、それから、ふわっと笑った。

「見えちゃった」

「見えちゃった」

リビングのソファで参考書を開いていたら、桃愛が帰ってきた。 「ただいまー、お兄ちゃん」 制服のまま、僕の向かいに座る。スカートがふわりと広がって—— 「……っ」 「ん? どしたの?」 にこにこしている。絶対わかってる。 「なんでもない」 「うそ。今、見たでしょ」 「見てない」 「じゃあなんで目逸らしたの」 桃愛が身を乗り出す。机の下で、わざとらしく足を組み替えた。白い布地が、また、ちらりと。 「女の子はね、どこ見られてるか、全部わかるんだよ?」 「……勉強中」 「へえ。集中できてる?」 できるわけない。 桃愛は満足そうに笑って、立ち上がった。部屋に戻りかけて、ふと振り返る。 「あ、今日のパンツ、いちごだよ」 「聞いてない」 「明日はどうしよっかな」 ひらひらと手を振って、階段を上がっていった。 参考書の同じページを、もう三十分見つめている。

プリン

プリン

放課後の教室で、美玖がチアの練習着のまま立っていた。 「忘れ物?」 「うん。ペンケース」 僕は自分の机で宿題を広げていた。美玖は窓際の席をごそごそ探している。夕陽が横から差して、薄い練習着が、なんというか、その。 「……見てる」 「見てない」 「嘘。目ぇ逸らした」 美玖がにやにやしながら近づいてくる。 「ねえ、見たい?」 「は?」 「おっぱい」 「いや待っ」 「いいよ、幼馴染でしょ」 意味がわからない。でも美玖は楽しそうに、練習着の裾に手をかけた。 「ほら——ぷりんっ」 揺れた。 「……っ」 「あはは、顔やば」 「お前なに」 「もっかいやろっか。ぷりんっ」 また揺れた。柔らかく、弾むように。美玖はけらけら笑っている。 「反応おもしろすぎ」 「いや、もう、いいから」 「えー、じゃあブラつけてからもう一回」 「なんで」 「違いがわかるかなって」 わかりたくない。いや、わかりたいけど。 結局、僕は最後まで見てしまった。美玖は満足そうに笑って、「じゃね」と帰っていった。 宿題は一問も進まなかった。

女神

女神

仕事で、ひどい失敗をした。 誰も責めなかった。それが余計につらくて、終電で帰って、シャワーも浴びずにベッドに倒れ込んだ。 「……大丈夫?」 ジュンが覗き込んでいた。同棲して半年。こういう日があることを、彼女はもう知っている。 「今日は関わんないで」 「やだ」 するりと布団に入ってきて、僕の頭を胸に抱く。柔らかい。あったかい。石鹸のにおいがする。 「しゃべんなくていいから」 「……」 「私が気持ちよくしてあげる」 その手が、ゆっくり下りてくる。 「ジュン、今日は」 「いいの。受け止めたいの、ぜんぶ」 暗闇の中で、彼女の目だけが光って見えた。濡れているような、祈っているような。笑っていた。 「……ずるい」 「うん、ずるいよ」 どうしようもなく、情けなく、救われた夜だった。 朝、目が覚めると、ジュンは隣で眠っていた。 頬に、昨夜の痕跡が、少しだけ残っていた。

きまぐれ

きまぐれ

日曜の昼下がり、舞は僕のベッドの上で猫のように丸くなっていた。 「ねえ」 返事はない。寝たふりだ。さっきまで絡みついてきたくせに、急にこうなる。 僕は諦めて本を開く。すると、するりと腕が伸びてきて、ページを押さえられた。 「……構って」 「今?」 「今」 見ると、着ていたはずのキャミソールがいつの間にか肩からずり落ちている。白い肌。整った鎖骨。その下の、柔らかな膨らみが、もう少しで—— 「……見た」 舞がにやりと笑う。 「見てない」 「うそ。耳、赤い」 するりと起き上がった舞が、僕の本を取り上げる。そのまま膝の上に乗ってきて、小さな顔を近づけた。 「ねえ、私のこと」 「……うん」 「世界でいちばん可愛いって言って」 「言わない」 「じゃあキスしない」 唇が触れそうな距離で止まる。吐息が甘い。 「……世界で、いちばん」 「うん」 「気まぐれ」 舞は一瞬むくれて、それから笑って、結局キスをした。 猫ってそういう生き物だから、仕方ない。